映画「東学農民革命」と前田憲二監督のご紹介
東学農民革命とは、1894年に朝鮮農民が「自由・平等」を求めて立ち上がった民主化運動である。
朝鮮政府は清国に鎮圧支援を要請したが、日本帝国軍が清国を押しのける形で初めて朝鮮半島に武力介入、数万人とも数十万人とも言われる農民を虐殺した。このときの日清間の対立を契機に日清戦争が勃発し、日本帝国主義による東アジア侵略へとなだれ込む悲劇の幕開けを導いた。
この革命の120周年を目前にした2013年、右傾化の暗雲が不気味に立ち込め始めた日本の状況を憂慮した前田憲二監督が、「日本の右翼化を防ぐためには『東学』に遡らねばならない」と製作を始めたのが、この映画である。
前田監督は1935年大阪生まれで、テレビが世に出始めた1960年代より「日本の祭り」を映像化してこられた先駆者でいらっしゃる。
日本の祭りを取材しながら徐々に祭りの源流が朝鮮半島にあることに気づき、80年代より朝鮮半島や中国に100回を越えるロケを繰り返しながら、「神々の履歴書(1988)」や「土俗の乱声(1991)」などの映画を製作。
日本と朝鮮半島間に密接な文化交流の歴史があったことを、祭りというキーワードを通して追認しながら、日本と韓国・朝鮮の友好復興のために、朝鮮半島では苛烈な日本人差別を受けながらも、真摯かつ根気強く取材を続けられた、気骨溢れる義侠の士でいらっしゃる。
慰安婦問題に切り込んだ映画「百萬人の身世打鈴(2000年)」で韓国政府より玉冠文化勲章を授与され、2009年には韓国・朝鮮・日本・中国のオールロケを敢行、文禄・慶長の役(壬辰倭乱)をフィーチャーした映画「月下の侵略者」を製作した。韓国民からは「日本を告発する日本人監督」と呼ばれ尊敬を集めるが、監督自身は日本の告発が根本目的ではなく、日本と朝鮮半島間の友好、そして東アジアの平和を願う一心でこれら3部作に魂を注いでこられた。
監督曰く、「急激に台頭する中国と日本が対立して戦争が勃発するようなことを避けるためには、南北朝鮮が強い統一国家となること。東学農民軍虐殺という歴史認識に対し、大きな穴が空いている日本のアイデンティティを修復するためにも、この『東学農民革命』を作らなければならない。」
東学農民革命をテーマにした映画は、韓国映画界の巨匠・申相玉監督が一度は企画したが、製作費調達の段階で惜しくも逝去され、生前より懇意にしていらした前田監督が申監督の遺志を継ぐ形でドキュメンタリー映画化に邁進された。
映画は4年の歳月を経て2016年8月に完成し、9月には韓国DMZ国際ドキュメンタリー映画祭にて特別招聘作品として大盛況のうちに上映された。